カフェオーナー
鈴木信行氏
PROFILE
| 昭和44年神奈川県生まれ。工学院大学工学部を卒業後、第一製薬に入社し東京研究開発センターに勤務。13年あまり勤めた同社を退職し、障害者としての経験から、人が交流する場を求めて東京都文京区に平成20年4月「みのりCafe」をオープン。生まれながら二分脊椎症を患い、患者会の「日本二分脊椎症協会」の本部会長などを務めた経験もある。日本スペシャルティコーヒー協会個人会員。同協会が認定する「コーヒーマイスター」の資格を持つ。 |



| 「みのりCafe」は東京都文京区の根津神社近くにあり、瀟洒な入り口が目を引く。「みのりCafe」では、カフェには珍しくワインも提供している。 |


| 鈴木さんの「コーヒーマイスター」の認定証とブローチ。 |

コーヒーを淹れる時は数秒が勝負。
最大かつ細心の注意を払う。 |

奥さんの真弓さんと。
真弓さんは日本ソムリエ協会認定の「ワインエキスパート」だ。 |
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| ●障害者としての経験から、語り合う場を求めてカフェを開く |
| 鈴木さんは大学の工学部で電子工学を専攻し、製薬会社に入社しています。工学部から製薬会社への就職は珍しいのではありませんか。 |
鈴木 確かにあまり例がないかもしれません。工学部出身にかかわらず、なぜ製薬会社に就職したかというと、私が二分脊椎症(*)を患う障害者であるということと切り離せません。障害者であるため医療にはずっと関心がありました。また大学3年生の時、がん患者となって一層強く医療に関心を持つようになり、製薬会社に就職したわけです。
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鈴木 入社後しばらくの間は研究員として、電子工学の知識を生かしながら製薬工場の設計をする仕事に携わりました。その後、経営戦略と総務を兼ねるような部門に配属となりました。製薬会社には13年あまり在籍したことになります。
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| 13年あまり在籍した会社を辞め、ご自分でカフェを開こうと奔走するようになりますね。そして今年4月1日にオーナーとしてカフェをオープンしました。ご自分でカフェを開くということにはどんな思いがあったのでしょうか。 |
鈴木 製薬会社が嫌になって辞めたわけではなく、以前から自分で何かをやってみたかったのです。自分は何をやりたいのだろうと考えている時、人と人とが出会える場をつくれないだろうかと思うようになりました。
当時私は二分脊椎症の患者会の会長などを務め、その運営にも深くかかわりました。患者会の活動をしながら感じたのは、ほとんどの場合、人が医療や福祉に関心を抱くようになるのは自分や子どもが障害者や病気になった後からだということです。それはやむを得ないことかもしれません。しかし、自分と直接かかわらない時から人が医療や福祉について語り合うような場があれば、お互いが刺激し合って自分の体や人生観などについて考えることができるのではないか…そんなふうに思うようになりました。そんな場をつくることができないかと考え続け、カフェというスタイルにたどり着いたわけです。 |
| ●最高のコーヒーを提供するため「自分の店」にこだわる |
| オープンに至るまでどのくらいの時間がかかったのでしょうか。また、どんな準備をされたのですか。その間に不安はなかったのでしょうか。 |
鈴木 カフェを開こうと決めてからオープンまでは3〜4年あまりですね。実際に準備にかかったのは会社を辞めてからです。もっともそれ以前からコーヒーが大好きでカフェ巡りのようなことはしていましたが…。準備期間に何をしていたかというと、まずコーヒーについてきちんとした知識と技術を身に付けなければと考え、「コーヒーマイスター」(**)の資格を取りました。
その一方で起業志願者を対象としたセミナーやイベントに参加し、できるだけ積極的に人とかかわるようにしました。そこでたくさんのことを学びましたし、多くの起業家や税理士の方などにも出会いました。またそこに集う方々とのネットワークに入り語り合うことで、次第に不安は小さくなっていきました。こうした人々との交流がなければ、二の足を踏んでいたかもしれません。ある時期からは不安よりも楽しみやワクワク感のほうが大きくなりましたね。人と人とがつながることはとても大切だなと改めて知りました。 |
| カフェを開くにしても、フランチャイズに加盟するという方法もあったと思うのですが…。そのほうが負担は少ないのではないでしょうか。 |
鈴木 私は「自分の店」を開きたかったのです。私はカフェを開く限りは、日本でもトップレベルと言われるコーヒー豆を仕入れ、その品質管理や淹れ方に自分の技術のすべてを注ぎ込みたいと考えていました。それは「自分の店」でないと実現はできないでしょう。
「最初から自分でカフェを開くのはリスクが大きい。とりあえずスタッフとして働いてみたら」というアドバイスをくださった方もいらっしゃいました。しかしその言葉に従うと、途中で自分の気力がなえてしまうのではないかとおそれました。自分が「やらなくちゃ」と思っている時に行動する…そんなふうに考えたわけです。 |
| オープンしてからまだ間もないですが、オーナーとしてどんなことを思っていらっしゃいますか。オープン前に思い描いていたこととの違いはありますか。 |
鈴木 まず思うのはスタッフの力の大きさです。このカフェは、私たち夫婦がスタッフの力を借りながら運営しています。スタッフたちは「いっしょにこのカフェをつくり上げていきたい」と言ってくれています。私たちはそのスタッフに支えられているということを実感します。
もちろん課題もあります。例えば予想していたよりお客様が少ない、あるいは収益が思うように上がらない、時には体がきついなと感じることもあります。しかし、苦労というほどのことはありません。いろいろ課題はあるけれど、これまで比較的順調にきているのではないかと思います。既に常連になってくださったお客様が毎回「おいしかった、また来るよ」という言葉をかけてくださいます。それはとてもうれしいですね。
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鈴木 コーヒー豆を輸入する時に商社を介さず、生産国の生産者から直接に仕入れているグループがあり、私はそこに参加しています。そのグループが輸入した豆の中から、自分で「これだ」と思うものを注文します。ブレンドにもこだわりました。コーヒー豆は種類によってローストの具合も違います。何種類もの豆を混ぜ合わせながら、お客様に自信を持ってお出しできる味ができるまで試行錯誤を繰り返しました。そうしてできたのが、メニューにある「みのりオリジナルブレンドコーヒー」です。
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| お仕事のなかで、最も注意していらっしゃるのはどんなことですか。 |
鈴木 コーヒーを淹れる時ですね。お一人おひとりのお客様にその都度自分なりの最高のコーヒーをお出ししたいと思っているので、細心の注意を払って淹れます。時にはうまく淹れられなかったと感じることがあります。そんな時は必ず自分で試飲し、その味に納得できない時はお客様に謝罪し淹れ直します。そういうことがないように、一層技術を磨かなければならないと自分に言い聞かせています。 |
| ●障害のあるなしにかかわらず、どのように生きるかが大切 |
| お話から障害と向き合いながら、お仕事に責任を持ち、前向きに人生を生きていこうとされていらっしゃるという印象を受けました。 |
鈴木 私は二分脊椎症という病気を抱えて生まれました。つまり私にとっては、一般の人から見れば不自由なこの体が当たり前なのです。この体で生きていくことが自然なのです。
とは言うものの、かつては体が思うように動かないことに苦しんだ時期がありました。しかし、ある時から後ろ向きになっても仕方がないと考えるようになりました。特にがん患者になったことが、大きな転機となりました。私が入院していた時、隣のベッドにいた患者はがんで亡くなりました。彼は亡くなり、私はたまたま生き延びたわけです。だったら亡くなった彼の分まで人生を大切に生きなくてはと思うようになり、これまで以上に「自分のやりたいことをやろう」という気持ちが強くなりましたね。
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| 障害者が働く場合には、様々な壁があります。また厳しい環境の中で、障害者自身も立ちすくんでしまうという例もあります。ご自分の経験から障害者が働くということについてどのようにお考えでしょうか。 |
鈴木 障害者であるかどうかにかかわらず、「人としてどのように生きたいのか」が大切だと思います。とどのつまり、自分はどのような人生観を持っているのかということです。
確かに障害者が働くには、厳しい環境にあることは否定できません。しかしその厳しさの中にあっても、自分の人生観を忘れずにいれば、必ず道は開けるのではないでしょうか。
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| 鈴木さんがこのカフェに託しているのはどんなことでしょうか。また、将来、こんなカフェにしたいというような夢はありますか。 |
鈴木 この店を開いた目的は、お客様同士の交流の場をつくるということです。店でお出しするコーヒーやワインはそのための手段とも言えます。普通の喫茶店では、どんなスタッフがいたかなどお客様の記憶にはないでしょう。またご自分以外のお客様にどんな方がいらっしゃったかも気づかないでしょう。しかしこの「みのりCafe」は違います。ここでお客様が人と交わる楽しさを少しでも味わい、それがご自分の人生にプラスに働いてほしいと願っています。そのためにはまずしっかりとしたコーヒーとワインをお出ししなければなりません。次の段階ではお客様と私がいろいろなお話をし、親しくなることです。そして私を介してお客様同士が交流し合うようになれば、とてもうれしいですね。 |
| ●人生観を持ち、夢や目標を忘れずに仕事に向き合おう |
| 近ごろ、仕事の意義を見出せず、就職しても短期間で退職してしまう若者が目立ちます。また自分と仕事との関係に悩む若者も少なくないようです。このような現状をどのようにお考えでしょうか。アドバイスを含めてお聞かせください。 |
鈴木 おそらく若者の一人ひとりが目標や夢、あるいは人生観を持てなくなってしまっているのではないでしょうか。その背景には、何かをするにしてもほとんどがマニュアル化されてしまって、自分で考える習慣が失われているという現状があるように思います。上司に指示されたことだけをやっていたのでは「仕事」とは呼べません。求められる以上のことをして初めて「仕事」と呼べるのです。でもマニュアル化の中で育ってきた人にはそれは難しい。彼らは自分で仕事の価値を見つけることができなくなってしまっているのではないでしょうか。こうした状況を打開するためにも、学校の先生たちには、自分で考えることができる人間の育成に力を注ぐことをお願いしたいですね。
最初に就いた仕事が自分の意に染まないこともあるでしょう。そんな場合でも、この仕事はどんな意味を持っているのか、次にどんな展開があるのかを考えることが大切です。そうすれば好まない仕事でも、向き合い方が変わってきます。若い人たちには自分なりの人生観を持ち、夢や目標を忘れないでいてほしいと思いますね。そうすれば自分にとって働くことに意味が見えてくるはずです。 |
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二分脊椎症…胎児の時に脊椎の形成が完全に行われず、様々な運動障害や機能障害、神経障害などを引き起こす病気。 |
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コーヒーマイスター…日本スペシャルティコーヒー協会が認定する資格。同協会が主催する「コーヒーマイスター養成講座」を修了し、認定試験に合格すると取得できる。認定されるにはコーヒーに対する深い知識と確かな技術が必要である。 |
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